- 2026年4月16日
たまたまがはれている
たまたま(陰嚢)が腫れてくる病気としては、次の精巣(睾丸)関連の病気が主に考えられます。① 精巣捻転、② 精巣上体炎、③ 精巣炎、④ 精索静脈瘤、⑤ 精巣がん、⑥ 陰嚢水腫の病気があり、この6つの中で、痛みを伴えば精巣捻転、精巣上体炎や精巣炎、精索静脈瘤の可能性があり総称して『急性陰嚢症』と呼ばれています。また、精巣上体炎や精巣炎では感染を伴う炎症であるため発熱も認めることがあります。精巣がん、陰嚢水腫などは痛みを伴うことはほとんどありません。
急性陰嚢症→『たまたまが痛い、腫れている』
たまたまは医学的には 「精巣(睾丸)」 と呼ばれます。精巣は、精子を作ること、そして 男性ホルモン(テストステロン)を分泌することという大切な役割を持つ、男性にとって非常に重要な臓器です。精巣は「陰嚢」 の中に入っています。いわゆる「玉袋」の部分です。実は、この玉袋の中には 精巣だけが入っているわけではありません。
精巣の横には「精巣上体」という、精子を成熟・貯蔵する組織があります。また、精巣からお腹の方へ伸びていく「精索」という束状の組織もあります。
精索の中には、「精管(精子を運ぶ)」、「動脈(精巣に血液を運ぶ)」、「静脈(精巣から血液を戻す)」などがまとまって通っています。そのため、『たまたまが痛い』と感じる場合、必ずしも精巣そのものだけが痛んでいるとは限りません。精巣、精巣上体、精索 など、陰嚢の中にあるどこかの組織にトラブルが起きている可能性があります。ただし、実際に「精巣上体や精索が痛いです」と言って受診される方はおらず、多くの方は『たまたまが痛い、腫れている』 と表現されます。実際には、精巣・精巣上体・精索のどこが原因でも、似たような痛みや腫れとして感じられることが多いのです。
男性であれば想像しやすいと思いますが、急所にボールが当たったときや強く打ったときのように、お腹の奥までズーンと響くような重い痛みが特徴です。
このように、陰嚢の中の組織から生じる痛みや腫れの症状を、私たち泌尿器科医は『急性陰嚢症』と呼んでおります。
①精巣捻転症(緊急性あり)
<原因と症状>
「精巣」は精索を通じてお腹の中とつながっていますが、陰嚢の中ではある程度動くことができますが精巣は陰嚢の内側に一部が固定されているため、通常は半回転以上ねじれることはありません。ところが、生まれつき精巣が陰嚢にしっかり固定されていない人 がいます。すると陰嚢の中で精巣が回転し、その結果精索がねじれてしまうことがあります。これが「精巣捻転(ねんてん)」です。この病気は、思春期に精巣が発育して大きくなる時期に起こりやすいとされていますが、生まれて間もない新生児や、まれに若い成人男性に発症することもあります。精索がねじれると、その中を通っている血管も一緒にねじれてしまいます。その結果、精巣へ血液が届かなくなり、突然の強い陰嚢の痛みが生じます。ねじれた精索はお腹の中へつながっているため、痛みがお腹にまで伝わり、腹痛や嘔吐として現れることもあります。特に年少の子どもでは、痛みの場所をうまく伝えられず、『おなかが痛い』と訴えることがあります。そのため、本当は陰嚢の病気である精巣捻転が見逃されてしまう可能性もありますので注意が必要です!
捻転は「たまたま」は上の方へ引き上げられたような位置になり、横向きになっていることが多く、発症は夜間、寝ているときに起こることが比較的多いです。まれに自然にねじれが戻ることがあります。精索のねじれが軽い場合には、体の動きなどをきっかけに自然に元の位置に戻り、痛みが急に軽くなることがあります。しかし、精巣捻転が起こる方は、もともと精巣と陰嚢の固定が弱い体質のことが多く、将来ふたたびねじれてしまう可能性があります。一度でもねじれたことのある人は再びねじれる可能性があり、注意が必要です!
<診断>
まず、「問診」を行い、年齢や症状の経過、痛みの出方などを確認して精巣捻転の可能性を考えます。次に診察を行い、陰嚢の見た目や触ったときの状態を確認します。同時に、陰嚢に「超音波検査(陰嚢エコー)」を行い、精巣や精索に血液が流れているかどうかを調べます。陰嚢エコー(ドップラーエコー)では、精巣に血液が流れているかどうかを確認します。精巣捻転の場合、精索がねじれることで血流が遮断されるため、ドップラーエコーで精巣への血流が確認できなくなることが多くあります。
そのほか、陰嚢の痛みを起こす病気には、急性精巣上体炎もあります。症状が精巣捻転と似ているため区別が難しいこともありますが、「尿検査」によって違いが分かる場合があります。また、精巣捻転とよく似た症状を示す病気として、精巣垂捻転(せいそうすいねんてん)や精巣上体垂捻転(せいそうじょうたいすいねんてん)があります。これらも症状が似ているため、診察や検査でも区別が難しいことが少なくありません。
『精巣(上体)垂捻転』は、精巣や精巣上体に付属している小さなイボのような組織で数㎜くらいの大きさです。おそらく特に何の役割もしていない、精巣垂や精巣上体垂ですが、ある日突然にその根もとがねじれることがあります。すると小さなイボのくせに結構な痛みが出て、たまが腫れることがあります。小学校高学年くらいの男の子にたまに起こる病気です。そのため、診察や検査を行っても 精巣捻転なのか、精巣垂捻転なのか、精巣上体垂捻転なのかをはっきり区別することが難しい場合が少なくありません。
<治療>
・用手整復
精巣捻転では、精巣は 内側に向かってねじれていることが多いとされています。そのため、両手で精巣を外側へ回すようにすると、ねじれが戻ることがあります。
しかし、この方法で実際にねじれが戻ることはあまり多くありません。ねじれが改善しない場合は、緊急手術が必要になります。
精索がねじれて精巣への血流が遮断されてから 6-12時間以内に手術でねじれを解除できれば、精巣を温存できる可能性が高いといわれています。
・精巣固定術
精巣固定術は、ねじれてしまった精巣の精索をほどき、精巣を陰嚢内に固定する手術です。手術ではまず精巣のねじれを解除し、その後、精巣の色や状態を確認して温存できるかどうかを判断します。温存可能と判断された場合は、精巣を陰嚢の内側に数か所縫い付けて固定します。一般的に、発症から6-12時間以内にねじれを解除できれば精巣を温存できる可能性が高いとされています。
一方、12時間以上経過している場合は、ねじれを解除してもすでに血流が途絶えて精巣が壊死していることが多く、その場合は摘出が必要になることがあります。
また、精巣捻転は今後反対側にも起こる可能性があるため、予防の目的で反対側の精巣も同時に陰嚢へ固定することが一般的です。
以上のように精巣捻転は症状も突然で強く、早期診断が重要になってきます。
対応が遅れると片方の精巣を失ってしまう可能性があり、将来的に不妊の原因になる可能性もある病気です。しかし、この病気は思春期の男の子に多いため、恥ずかしさなどから 受診が遅れてしまうことも少なくありません。精巣捻転と診断された場合は 緊急手術が必要になることが多いため、『急にたまたまが痛い』場合には時間を無駄にしないよう、当院に受診された場合は早々に提携病院に紹介させていただきますし、あるいは泌尿器科で緊急手術に対応できる病院を直接受診されることも大切だと実感しております!
②精巣上体炎(緊急性なし)
<原因と症状>
精巣上体とは精巣の横にあり精巣で作られた精子の通り道で、精子を一時的に貯蔵する場所でもあります。精巣上体炎とは、精巣上体に起こる感染症です。尿道から侵入した細菌が、精子の通り道をさかのぼって精巣上体まで達することで発症します。細菌が精巣上体 に感染すると 急性精巣上体炎を起こし、腫れや痛みが現れます。
多くの方は『たまたまが腫れいてる、痛い』と訴えて受診されますが、厳密にいうと腫れているのは精巣上体であり、精巣そのものではありません。
症状としては、陰嚢が赤く腫れ上がり、お腹まで響くようなたまたまの痛みが出ることがあります。また、比較的高い発熱を伴うことが多いのも、急性精巣上体炎の特徴です。
小さなお子さんでは、汚れた手でおちんちんを触った際に入り込んだ細菌が原因となり、急性精巣上体炎を起こすことがあります。また、若い男性ではクラミジア、淋菌などの性感染症が原因となって、急性精巣上体炎を発症することもあります。一方で、ご高齢の男性の方では前立腺肥大症や神経因性膀胱などが原因で、普段から尿が出にくいことがありますが、症状が進むと排尿後にも残尿が残ることがあります。残尿とは、排尿しても膀胱の中に出しきれず残った尿のことです。このような尿は細菌が繁殖しやすく、慢性的な尿路感染の原因になります。その結果、急性前立腺炎を起こし、さらに感染が広がって急性精巣上体炎を発症することもあります。このような場合には、排尿困難や排尿時痛 などの症状を伴うことがあります。また、施設に入所されている方などでは、何らかの理由で尿道カテーテルが留置されていることがあります。このような方で高熱が出て、たま(陰嚢)が腫れている場合には、急性精巣上体炎が疑われることがあります。
<診断>
問診後、たまを見て触る(・視診と触診)を行い、陰嚢の痛みの場所や腫れの程度を確認します。特に、小さなお子さんでたまたまの痛みがある場合には、精巣捻転という緊急性のある病気の可能性も念頭におく必要があります。多くの場合、触診だけでははっきり区別することは難しいのですが、痛み方や腫れ方の違いが診断の参考になることがあります。また・尿検査を行い、尿中に白血球や細菌があるかどうかを調べます。細菌が疑われる場合には尿培養検査を行い、原因となる細菌の種類やどの抗生剤が有効かを確認します。さらに・超音波検査(エコー)を行うことも多くあります。外から見ただけでは、精巣が腫れているのか、精巣上体が腫れているのか判別しにくいことがありますが、超音波検査を行うことで精巣や精巣上体への血流を確認することができるため、精巣捻転との鑑別がつきやすくなります。
若い男性で、問診などから クラミジアや淋菌などの性感染症が疑われる場合には、尿を クラミジアPCR検査や淋菌PCR検査に提出します。また、高い発熱がある場合には 採血検査を行い、炎症の程度を確認することもあります。
<治療>
基本的には細菌感染症のため、治療は抗菌薬(抗生剤)メインとなります。治療を始める前には細菌検査を行い、原因菌の種類を調べ、その結果をもとに原因菌に適した抗菌薬 を使用して治療を行います。性感染症が原因と疑われる場合には、クラミジアや淋菌に有効な抗菌薬を飲み薬または点滴で治療します。
一方、糖尿病などの持病があるご高齢の方や、採血検査で炎症反応が強い場合には、入院して点滴による抗菌薬治療を行うこともあります。
治療が遅れると症状が悪化し、陰嚢に膿がたまって切開排膿が必要になることがたまにあります。また感染が広がると、陰嚢や精巣だけでなく、お尻やお股の周囲にまで炎症が波及し、命に関わる状態になることもありますので、ご高齢で持病のある患者さまは特に注意が必要です。
最後に、『陰嚢が腫れて、痛い!』
- 小さいお子さんの場合は、急性精巣上体炎か精巣捻転 のどちらかであることが多いとされていますが、両者の鑑別が難しい場合があり、もし精巣捻転 であった場合は、緊急手術を行わないと 精巣を失ってしまう可能性があるため、早めに泌尿器科を受診することが大切です。
- 若年~中年男性の場合は、急性精巣上体炎の原因としてクラミジアや淋菌などの性感染症が関係していることがあります。また、精巣上体は精子の通り道であるため、炎症が強くなると精子の通過が妨げられ、不妊の原因になる可能性も少なからずありますので、症状がある場合は必ず泌尿器科を受診しましょう。
- ご高齢の方、特に糖尿病などの持病がある場合には、急性精巣上体炎が重症化し、陰嚢や精巣だけでなく会陰部の周囲へ感染が広がることがあります。重症化すると致命的になる可能性があるため、早めの受診が重要です。
③急性精巣炎(緊急性なし)
精巣炎とは、精巣に炎症が起こる病気で、多くの場合ウイルス感染が原因です。
ムンプスウイルスによるおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)にかったあと、頬が腫れ、精巣の炎症により陰嚢の痛みや腫れを起こし発熱も伴うことがあります。精巣の腫れは片側だけに起こることもあれば、数日後に反対側にも腫れが出ることがあります。
- 検査に関しては、視診・触診で痛みや腫れの程度、超音波検査(陰嚢エコー)で緊急性のある精巣捻転がないかどうかを調べます。ムンプスのワクチンを過去に打っているかの確認もさせていただきます。
- 治療に関してはウィルス感染のため多くは1週間程度で自然に治りますので、痛みや炎症を抑える治療(対症療法)メインとなります。
※なお、大人になってからおたふくかぜにかかりムンプス精巣炎を発症した場合、まれに精子を作る能力(造精機能)が低下し、男性不妊の原因になることがありますので注意が必要です。
④精索静脈瘤(緊急性なし)
精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)とは、陰嚢の中にある精巣(睾丸)から心臓へ戻る静脈が拡張し、こぶのようにふくらんでしまう状態をいいます。稀な病気ではなく、健康な男性のおよそ15%にみられるとされ、特に左側に起こりやすいこと(90%)が知られています。症状は、自覚症状がないかあっても軽い症状にとどまることがほとんどです。症状が出る場合には、陰嚢の鈍い痛みや違和感がみられます。また、立っていると症状が強くなり、横になると軽くなることが特徴です。
<診断と治療>
視診・触診や超音波検査(陰嚢エコー)が主体となります。
また、重症度によって 3つのグレード に分類されます。
- GradeⅠ:お腹に力を入れたとき(いきんだとき)に、ようやく触れる程度のもの
- GradeⅡ:立った状態で触診すると静脈の拡張が触れるもの
- GradeⅢ:外見からもはっきりと分かるほど静脈が膨らんでいるもの
精索静脈瘤は進行する可能性のある病気であり、症状や状態によっては手術治療が基本 となります。ただし、痛みなどの症状に対しては 鎮痛薬で対応する場合もあります。
乳幼児のお子さんが発症することはほとんどありませんが、思春期に入ると精巣への血流が急激に増大するため頻度があがる(10~15%)ことが知られています。
※もし、お子さんの陰嚢に『うどんのようなデコボコ』が見られたり、左右の精巣の大きさに明らかに差がある場合は、当院含め一度専門医を受診することをお勧めします!
急性陰嚢症としては、上記 ① 精巣捻転、② 精巣上体炎、③ 精巣炎、④ 精索静脈瘤が挙げられますが、緊急性があるのは① 精巣捻転だけですので、お子さん含めご両親も注意していただければ幸いです!
⑤精巣がん
<症状と原因>
精巣は睾丸とも呼ばれ、精子をつくるだけでなく、男性ホルモンを分泌するなど、男性の体にとって大切な役割を担っています。精巣がんでは痛みを伴うことはまれで、がんは放置しておくと大きくなっていきますが、痛みがあまりないため、違和感があっても受診が遅れてしまうケースも少なくありません。精巣がんは進行すると、腫瘍内の出血や感染によって痛みが出ることがあります。また、がんが転移すると、咳や息苦しさ、首のリンパ節の腫れ、転移部位に応じた症状が現れることがあります。
頻度としては、10万人に1人程度と比較的まれながんですが、20~30代の男性の中では最も多い固形がんとなっています。リスク要因としては、家族歴と停留精巣があります。家族歴とは、ご家族(特に父親や兄弟)に精巣がんにかかった方がいる場合を指し、そのような場合は発症リスクがやや高くなるとされています。また、停留精巣とは、小児期に精巣が陰嚢の中におさまらず、お腹や鼠径部にとどまっている状態のことです。この状態があると、将来的に精巣がんのリスクが高くなることが知られています。
精巣がんは、比較的早い段階から転移しやすく、悪性度の高い腫瘍です。一方で、すでに転移がある場合でも、抗がん剤治療・手術・放射線治療を組み合わせた治療により高い治療効果が期待できるという特徴があります。
<種類>
精巣腫瘍の多くは、精子をつくる「胚細胞」と呼ばれる細胞ががん化したものです。
これらは、腫瘍の性質や組織の違いによって、『セミノーマ』と『非セミノーマ』の大きく2つに分類されます。『非セミノーマ』はさらに、胎児性がん、奇形種、卵黄嚢腫瘍、絨毛がんなどのタイプに分類され、多くはその混合型として見受けられます。これらの種類によって、進行の速さや抗がん剤の効き方が変わってくることがあります。
<診断>
診断に必要な検査としてはⅠ. 視診・触診、Ⅱ. 超音波検査(陰嚢エコー)、Ⅲ.血液検査、Ⅳ.画像検査(CT/PET検査など)が挙げられます。
精巣がんが疑われる場合、まずⅠ. 触診を行い精巣の腫れやしこりの有無を確認します。Ⅱ.超音波検査(陰嚢エコーで)で精巣の腫れや内部の不均一な変化が確認されることが多く、この段階で強く疑われる場合が少なくありません。ただし、精巣がんと考えられても、腫瘍の詳しい種類や転移の有無を調べる必要があるため、さらに検査を進めていきます。
Ⅲ. 血液検査(腫瘍マーカー)
血液検査も重要で、特に以下の腫瘍マーカーを測定します。
- LDH
- AFP
- HCG(-β)
これらの数値は、がんの種類や性質を推測する手がかりになります。
Ⅳ. 画像検査
さらに、以下のような画像検査を行い、リンパ節や他臓器への転移の有無も確認します。
- CT検査
- PET検査
- MRI検査
☆ 精巣がんが疑われた場合は、直ちに病側の精巣を摘出する手術(高位精巣摘除術)を行います。摘出した精巣は、病理検査に提出し、悪性(がん)かどうかの確認に加えて、腫瘍の種類(セミノーマor非セミノーマ)を詳しく調べます、非セミノーマであれば先述した4種類(胎児性がん、奇形種、卵黄嚢腫瘍、絨毛がん)などに分類されます。
これらの検査結果を総合して確定診断を行い、精巣がんの進行度(病期)や悪性度を評価し、治療方針を決定します。
<治療>
Ⅰ. 手術(高位精巣摘除術)
精巣がんの治療は、まず精巣腫瘍の摘出手術を行います。 摘出した腫瘍の病理検査でセミノーマか非セミノーマかを決定します。後者のほうが転移しやすく、治療に画像検査(CT、PETなど)で病期を決定し、腫瘍マーカー(LDH、AFP、HCGなど)の値から予後の悪性度を決定します。 転移がなければ、この手術で治療終了となり、その後再発転移がないか定期的にフォロー(血液検査の腫瘍マーカーとCT検査で評価)します。
Ⅱ. 化学療法(抗がん剤治療)
転移があれば、追加の治療として、抗がん剤による全身化学療法を行います。 一般的にはブレオマイシン、エトポシド、シスプラチン(BEP)という3種類の抗がん剤の併用療法を、まずは3〜4コース行います。これは、安定した効果を発揮している標準的な治療です。入院治療で行います。
抗がん剤には骨髄抑制(白血球が減り感染を起こしやすくなる、貧血になる、血小板が下がり出血しやすくなる)、吐き気、脱毛、倦怠感、痺れなどの副作用が認めることがあります。抗がん剤の併用療法により、転移巣が画像上で消失し、かつ腫瘍マーカーが正常化(陰性化)した場合は、治癒と判断されます。一方で、4コース以上行っても十分な効果が得られない場合には、抗がん剤の種類を変更し、追加で治療を行います。次に用いる抗がん剤は施設によって異なり、最適な治療法については一定の見解が分かれることもあります。
〇 治療の継続と残存病変
基本的には、転移巣が消失する、または腫瘍マーカーが正常化するまで抗がん剤治療を継続します。ただし、もともと転移巣が大きい場合には、腫瘍マーカーが正常化しても、画像上「残存腫瘤」が残ることがあります。
この残存腫瘤には、以下のような可能性があります。
- がん細胞の死骸
- わずかに残存した生きたがん細胞
- 奇形腫(抗がん剤が効きにくく、腫瘍マーカーを産生しないタイプ)
〇 手術の必要性
これらの違いは、画像検査や血液検査だけでは正確に判断することが難しいため、
一定以上の大きさの残存腫瘤がある場合には、手術で摘出することが検討されます。
この手術は『後腹膜リンパ節郭清術』と呼ばれ、比較的大きな手術となります。
Ⅲ. 放射線治療
転移が認められない場合の再発予防を目的として行われることがあります。
そのほか、Ⅰ.手術、Ⅱ.抗がん剤治療、Ⅲ.放射線治療により、精子をつくる力(造精機能)が低下した場合、不妊となる可能性があります。そのため、将来の妊娠を希望される方には、治療前に精子を凍結保存しておくことも可能です。
最後に、精巣がんは転移しやすく進行も比較的早い腫瘍ですが、その一方で抗がん剤が奏功し、多くの場合は適切な治療により治癒が期待できうるがんですが、自覚症状に乏しく、周囲の人も異常に気づきにくい病気です。
そのため、ご自身で精巣(睾丸)の腫れやしこり、違和感に気づいた場合は、できるだけ早くに泌尿器科を受診することが大切です!
⑥陰嚢水腫
陰嚢(いわゆる玉袋)の中では、精巣(睾丸)の周囲にごく少量の液体が存在しており、精巣が動く際に陰嚢の内側と擦れないよう、潤滑の役割を果たしています。
陰嚢水腫とは、何らかの原因によって精巣(睾丸)のまわりに液体がたまり、陰嚢(玉袋)がふくらむ状態をいいます。新生児の男児では、出生時の見た目で気づかれることが多く、幼児期には健康診断などをきっかけに発見されることもあります。また成人の場合は、入浴時に体を洗っている際などに陰嚢の腫れに気づき、次第にズボンや下着が履きにくくなることで自覚することもあります。『精巣が腫れてきた』と訴えて受診される方が多いものの、実際にはその多くが陰嚢水腫です。腫れているのは精巣そのものではなく、液体がたまって膨らんだ陰嚢です。子どもと大人では原因や対応が異なりますので、以下に説明します。
〇 子どもの陰嚢水腫
生まれたばかりの男の赤ちゃんでは比較的よくみられます。
多くは2歳頃までに自然に治るとされています。男児の精巣は、お母さんのお腹の中から陰嚢へ下りてきます。このとき、お腹とつながる「腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)」という通り道が一時的に存在します。
通常は出生までに閉じますが、少し開いたまま残ることがあります。
- 大きく開いている場合:腸が入り込み、鼠径ヘルニア(脱腸)になる
- わずかに開いている場合:液体(腹水)だけが入り、陰嚢水腫になる
この2つは仕組みとしては同じです。
陰嚢水腫は多くの場合、自然に吸収されて改善するため、すぐに治療は必要ありません。
ただし、2歳を過ぎても改善しない場合や、腫れが強い場合には手術を検討することがあります。
○大人の陰嚢水腫
成人では通常、腹膜鞘状突起は閉鎖している状態です。しかし何らかの原因で陰嚢内に液体がたまり、徐々に腫れて大きくなることがあります。腫れがあっても多くの場合は痛みを伴わず、『大きくなって邪魔に感じる』と訴える方が少なくありません。さらに大きくなると、歩行時に内ももと擦れて皮膚に痛みや不快感を生じることもあります。
考えられる原因としては、
- 精巣上体炎などの炎症
- 外傷、陰嚢周囲の術後
などがきっかけとなって発症することもありますが、多くの場合は明らかな原因が特定できません。
<症状>
- 陰嚢(玉袋)の腫れ
- 痛みはほとんどない
子どもの場合は、押すとしぼむことがあります。
大人では、ゆっくり大きくなることもあれば、比較的急に腫れることもあります。
<検査と診断>
・問診と触診
陰嚢や精巣の大きさや硬さ、痛みの有無などを調べます。
・超音波検査(陰嚢エコー)
腫れの中身が液体かどうかを確認し、他の病気(ヘルニアや炎症など)と区別します。
・透光検査(光を当てる検査)
ペンライトなどで光を当てると、たまっている液体の量が多いため、中が透けて見える(透光性)のが特徴です。逆に光が通らない場合は、液体以外の内容物がある可能性があり、その際はまず鼠径ヘルニア(脱腸)を疑います。
また、赤ちゃんや子どもで痛みを伴う場合には、精巣上体炎や精巣捻転、鼠径ヘルニアといった病気の可能性も考えられます。さらにまれではありますが、精巣腫瘍の可能性も否定できません。この場合は、痛みを伴わないことが多いとされています。
<治療>
〇 子どもの陰嚢水腫
お腹の中と玉袋をつなぐ通路である腹膜鞘状突起は、通常2歳ごろまでに自然に閉じます。それに伴い、玉袋にたまっていた液体(腹水)も徐々に吸収されるため、陰嚢水腫は自然に改善していきます。このため、赤ちゃんの陰嚢水腫は基本的には経過観察となります。ただし、
- 大きくなる場合
- 2歳を過ぎても続く場合
- 鼠径ヘルニアを伴う場合
には手術を行うことがあります。
○大人の陰嚢水腫
必ずしも治療は必要ではありませんが、
- 大きくて生活に支障がある
- 違和感が強い
場合には治療を行います。
一般的には、腫れた陰嚢にエコー(超音波検査)をあて精巣(睾丸)にあたらないように注意しながら針で液体を抜く穿刺吸引を行いますが、再発することも多く、その場合は手術を検討します。手術は、陰嚢や鼠径部に数cmの切開を加えて水腫を取り除く方法が一般的です。
☆最後に、陰嚢水腫のある赤ちゃんや子どもでは緊急性はありませんが、泣いたときに膨らみが大きくなっていないか、痛がる様子がないかなどを日頃から注意して観察することが大切です!