- 2026年4月15日
- 2026年4月16日
夜間頻尿について
夜中に何度も目が覚めてしまう方へ
夜間頻尿(やかんひんにょう)は、実は多くの方が悩んでいる症状ですが、その背景には単なる加齢だけではない、さまざまな原因が隠れています。当院では、患者さまお一人おひとりの生活スタイルに合わせた改善策をご提案します。
1. 夜間頻尿の定義とは?
夜間頻尿とは、就寝中に排尿のために1回以上起きなければならない状態をいいます。 健康な方でも1回程度は起きることがありますが、臨床的に治療の対象となりやすいのは「2回以上」の場合です。夜間頻尿が続くと、慢性的な睡眠不足から生活リズムが乱れるだけでなく、夜間の移動による転倒・骨折のリスクも大幅に上昇します。年齢とともに回数が増える傾向にありますので、治療の対象として考えられています。
2. なぜ夜中にトイレに行きたくなるのか?
原因は大きく分けて3つあります。
- 尿量の増加(多尿・夜間多尿):水分を取りすぎている、または糖尿病や高血圧、腎機能の低下などが原因で、尿そのものの量が増えている状態です。
- 膀胱の容量低下:過活動膀胱や前立腺肥大症などにより、膀胱に尿を十分に溜められなくなっている状態です。
- 睡眠障害:「トイレに行きたいから起きる」のではなく、「眠りが浅いために尿意を感じてしまう」ケースです。不眠症や睡眠時無呼吸症候群などが関連しています。
3. 診断
夜間頻尿の原因を正確に突き止めるために、患者さま自身の「排尿日誌」が有用です。
「排尿日誌」とは、「いつ、どれくらいの量の尿が出たか」を記録していただくことで、お体の中で何が起きているのかが明確に見えてきます。記録は少しご面倒なこともあるかと思いますが、数日間の記載をお願いします。
- 夜間多尿の診断: 寝ている間の尿量が、1日の総尿量の33%(若い方では20%)を超えると「夜間多尿」と診断されます。
- 多尿の診断: 1日の尿量全体が、体重1kgあたり40mlを超える場合(例:体重60kgの方で2,400ml以上)は「多尿」と診断されます。
- 随伴症状の把握:「急にトイレに行きたくなる(切迫感)」や「間に合わずに漏れてしまう(尿失禁)」といった症状の有無の確認も行います。
日誌の結果、尿量自体に問題がない(多尿・夜間多尿ではない)場合は、膀胱や前立腺の形・機能に原因がある可能性を考えます。
- 腹部超音波(エコー)検査: お腹の上から器具をあてるだけの痛みのない検査です。
- 残尿量: 出し切れずに膀胱に残っている尿がないか
- 前立腺肥大: 男性の場合、前立腺が尿道を圧迫していないかを詳しく調べます。
4.予防 ☆夜間頻尿を防ぐ「4つの習慣」
お薬に頼る前に、まずは日々の生活リズムを整えることが大切です。ちょっとした工夫で、夜のトイレ回数を減らせる可能性があります。
①午前中の「日光浴」でリズムを作る
午前中に太陽の光を浴び、意識的に体を動かしましょう。
- 理由: 日光を浴びると、眠気を誘う「メラトニン」というホルモンの日中の分泌が抑えられ、頭がスッキリします。
- メリット: 体内時計がリセットされ、夜の安眠(深い眠り)につながり、結果として尿意で目が覚めにくくなります。
②「昼寝」は午後3時までに30分以内
お昼寝をするなら、タイミングと時間が重要です。
- おすすめ: 午後1時〜3時の間に、30分以内にとどめましょう。
- 理由: この時間は自然と眠くなるリズムですが、30分を超えると深い眠りに入ってしまい、夜の睡眠に悪影響を及ぼします。短時間なら目覚めもスッキリします。
③夕方の「適度な運動」で水分を排出
寝る3時間ほど前に、30分程度の軽い運動(散歩や掃除など)を取り入れましょう。
- 理由: 夕方に体を動かすと、日中に足に溜まった水分が血管に戻り、汗などとして寝る前に体外へ排出されやすくなります。
- メリット: 体温が一度上がり、寝る頃に自然と下がっていくことでスムーズに入眠できます。ほどよい疲労感はストレス解消にも効果的です。
④夕方以降は「利尿作用のある飲み物」を控える
コーヒー、緑茶、紅茶など、カフェインを含む飲み物には強い利尿作用があります。
- アドバイス: これらは日中に楽しむ程度にし、夕方以降は控えましょう。
- 注意点: 「寝る前の1杯」が、夜間の尿量を増やしてしまっているかもしれません。夕食後はノンカフェインの飲み物を選ぶのがおすすめです。
5. 治療
治療は①(夜間)多尿のある夜間頻尿、②夜間多尿のない夜間頻尿に分かれます。
①(夜間)多尿のある夜間頻尿
●「多尿」による夜間頻尿(1日中ずっと尿が多い)
1日の総尿量が、体重1kgあたり40mlを超える状態を指します(例:体重60kgの方で2,400ml以上)。
多尿(尿量そのものが多い)の原因となる病気
1日の尿量が異常に多くなる背景には、泌尿器科的な問題だけでなく、内科的な疾患や服用しているお薬が隠れていることが少なくありません。この場合、まずは原因となっている「大元の病気」の治療を優先することが、夜間頻尿改善への近道となります。
多尿を引き起こす主な要因
◇水分の過剰摂取
・原因: 過剰な飲水、心因的な要因、脳の異常(口渇中枢の障害)、または一部のお薬(安定剤や抗コリン薬)による口の渇き。
・特徴: 体が必要としている以上に水を飲んでしまうことで、尿量が増加します。
◇尿を濃縮する力の低下(水の再吸収障害)
・原因: 尿崩症(にょうほうしょう)、慢性腎盂腎炎、低カリウム血症など。
・メカニズム: 本来、腎臓で再吸収されるべき水分がそのまま尿になってしまうため、尿を濃くすることができず、薄い尿が大量に出てしまいます。
◇糖や薬による排泄(浸透圧利尿)
・原因: 糖尿病、SGLT2阻害薬(糖尿病治療薬)、利尿薬、急性腎不全など。
・メカニズム: 血液中の糖分が高くなると、糖が尿へ排出される際に一緒に水分も引き込んでしまうため(浸透圧利尿)、尿量が増えます。
◇代表的な疾患と尿量の関係
・糖尿病の場合 尿の中に糖が多く出ると、その糖がスポンジのように水分を吸い寄せて一緒に排出させてしまいます。その結果、喉が乾いてさらに水を飲むという悪循環に陥り、夜間の尿量も増えてしまいます。
・腎機能障害の場合 腎臓の「尿を濃くする力」が低下するため、尿の量が増えます。また、日中に摂取した水分をスムーズに処理できなくなるため、夜になっても尿が作られ続け、夜間頻尿を招きます。
②「夜間多尿」による夜間頻尿(寝ている間だけ尿が多い)
夜間頻尿の患者さまの中で、最も多い原因がこの「夜間多尿」です。1日の尿量自体は正常でも、「夜間の尿量が、1日の総尿量の33%(3分の1)以上」(若年層では20%以上)を占める状態を指します。つまり、本来日中に出るべき尿が、夜間にシフトしてしまっている状態です。
☆夜間多尿を引き起こす「5つの要因」
A. 寝る前の「過剰な飲水」
「脳梗塞や心筋梗塞の予防のために」と、寝る前に一生懸命お水を飲んでいる方をよくお見かけします。しかし、実は「寝る前の水分補給だけで脳梗塞が予防できる」という 医学的な証拠は乏しいのが実情です。 適度な補給は大切ですが、過剰に摂取すると、そのまま夜の尿量として跳ね返ってきてしまいます。
B. 高血圧・心不全などの「循環器の病気」
・高血圧: 高齢の方や血圧が高い方は、日中に腎臓への血流が抑えられ、尿が作られにくくなる一方、夜間に血流が増えて尿が大量に作られる傾向があります。
・心機能の低下(むくみ): 心臓のポンプ機能が弱まると、日中は重力で足に水分が溜まり(むくみ)、夜寝て横になることでその水分が血管に戻り、尿として排出されます。夜間頻尿から心疾患が見つかることも少なくありません。
C. 睡眠時無呼吸症候群(いびき)
一見関係なさそうですが、実は深い関わりがあります。 無呼吸状態が続くと心臓に負担がかかり、尿を出すホルモンが分泌されやすくなります。また、眠りが浅くなることで「尿を抑えるホルモン」が出にくくなり、多尿を招きます。当院では必要に応じて、CPAP(シーパップ)などの専門治療が可能な施設をご紹介します。
D. ホルモンバランスの乱れ
私たちは通常、寝ている間に脳から「抗利尿ホルモン」が出て、尿を濃縮し、量を抑えることで安眠できるようになっています。しかし加齢とともにこのバランスが崩れ、夜間にホルモンが不足すると、尿が薄いまま大量に作られるようになってしまいます。
E. アルコール・カフェイン・お薬の影響
・嗜好品: 寝る前のアルコールやカフェインは、抗利尿ホルモンを抑えて尿を出しやすくします。
・お薬: 一部の血圧の薬(カルシウム拮抗薬)は足のむくみを起こしやすく、結果として夜間多尿につながることがあります。
☆夜間多尿の治療と対策
原因を突き止めた上で、以下のようなアプローチを行います。
① 飲水・塩分指導(生活習慣の見直し)
・適切な水分量: 体重の2〜2.5%(体重60kgで1.2〜1.5L)を目安に、体調や季節に合わせて調整します。
・塩分を控える: 塩分を摂りすぎると、体が薄めようとして水分を欲し、結果として尿が増えます。1日6g未満を目標にしましょう。
② お薬による治療
・デスモプレシン(男性限定): 不足している「尿を抑えるホルモン」を補うお薬です。夜間の尿を濃くして量を減らします。※心不全の患者さまには投与できず心臓への影響を確認するため、事前に採血検査が必要です。
・利尿剤(女性など): 昼間のうちにしっかり尿を出してしまうことで、夜間の尿量を減らす調整を行うことがあります。
当院へ受診される方へ
夜間多尿の原因は多岐にわたります。高血圧、糖尿病、睡眠障害など、他の病気が隠れているサインかもしれません。 診察時には、「お薬手帳」を忘れずにお持ちください。他科で処方されているお薬の内容を確認することで、より正確な原因診断が可能になります。
①夜間多尿のない夜間頻尿
●排尿日誌の結果、「尿の量自体は増えていない(多尿・夜間多尿ではない)」という場合、原因の多くは膀胱に尿を十分に溜められない「蓄尿障害」にあります。
□膀胱が「硬く・小さく」なっているかもしれません
膀胱はしなやかな筋肉でできた袋のような組織ですが、加齢とともにその柔軟性が失われると、風船のように膨らむことができなくなります。
・目安: 1回の尿量が200ml以下であることが多いです。
・症状: 少量の尿が溜まっただけで膀胱がパンパンに感じてしまい、夜中に何度もトイレに起きることになります。
□代表的な原因疾患
尿を溜められなくなる背景には、以下のような泌尿器科特有の病気が隠れています。
・過活動膀胱(OAB) 膀胱が自分の意思に反して勝手に収縮してしまう病気です。夜間頻尿だけでなく、日中の頻尿や「急にトイレに行きたくなって我慢できない(尿意切迫感)」、尿漏れを伴うこともあります。
・前立腺肥大症(男性に多い) 肥大した前立腺が尿道を圧迫するだけでなく、膀胱にも刺激を与え、結果として膀胱が過敏になり尿を溜められなくなります。男性の夜間頻尿では、まずこの前立腺のチェックが欠かせません。
・女性特有の疾患(骨盤臓器脱など) 中高年女性に多い「骨盤臓器脱(子宮や膀胱が下がってくる状態)」や、膀胱の粘膜に炎症が起きる「間質性膀胱炎」も、夜間頻尿を引き起こす原因となります。
□畜尿障害を改善させる夜間頻尿の治療
膀胱の機能に原因がある場合は、お薬による治療で高い効果が期待できます。
・過活動膀胱のお薬: 膀胱の異常な収縮を抑え、筋肉をリラックスさせて尿をたくさん溜められるようにします。
・前立腺肥大症のお薬: 尿道の筋肉を緩めて尿の通りをスムーズにし、膀胱への負担を軽くします。
●尿意があるから目が覚めるのではなく、実は眠りが浅いために、尿意を感じてしまうというケースも少なくありません。ぐっすり眠れた日はトイレに起きないという心当たりがある方は、この「睡眠障害」が原因の可能性があります。
□眠りの浅さが尿意を招くメカニズム
睡眠の質が低下すると、体の中では以下のような変化が起きています。
・過敏な反応: 睡眠ホルモン「メラトニン」が不足して眠りが浅くなると、脳がわずかな刺激にも反応しやすくなります。その結果、本来なら起きるほどではない少量の尿でも「トイレに行きたい」と感じて目が覚めてしまいます。
・悪循環の形成: 睡眠が妨げられると、尿を濃縮して量を抑える「抗利尿ホルモン」の分泌も悪くなります。つまり、睡眠不足が夜間頻尿を招き、頻尿がさらに睡眠不足を悪化させるという、苦しい悪循環に陥ってしまうのです。
□睡眠障害を改善させる夜間頻尿の治療
睡眠障害が原因の場合、睡眠の質を改善することが夜間頻尿の解決に直結します。
・安全性の高いお薬の選択:「睡眠薬はふらつきや転倒が怖い」というイメージがあるかもしれません。しかし、最近では高齢の方でも安心して服用できる、依存性や転倒リスクを大幅に軽減した新しいタイプの薬剤が登場しています。患者さまの状態に合わせ、安全性を第一に考えた処方を行います。
・眠りやすい環境づくり: お薬だけでなく、先ほどご紹介した「生活習慣の改善」も並行して行います。太陽の光を浴びる、寝る前のリズムを作るなど、薬に頼りすぎない安眠への環境整備を一緒に考えていきましょう。
最後に
夜間頻尿は「命に関わる病気ではない」と思われがちですが、睡眠不足は転倒・骨折のリスクを高め、生活の質(QOL)を大きく下げてしまいます。
まずは、「排尿日誌」などを活用し、いつ・どれくらいの尿が出ているかを可視化します。
次に超音波検査や尿検査を行い、前立腺や膀胱の状態を的確に診断、内服薬による治療だけでなく、水分の取り方や塩分控えめの食事といった生活習慣のアドバイスも並行して行います。
「朝まで一度も起きずに眠れた」という喜びを。
夜間頻尿は適切な治療で改善できる症状です。一人で悩まず、まずは当院へお気軽にご相談ください!